今回は少し踏み込んだことを書きたいと思います。というのも、再び、「運転士のミス」説で片付いてしまいそうな流れが見受けられるのが、どうも気になって仕方ありません。まあ、捜査本部は人為的ミスを調べるのが仕事ですからしょうがないですが、メディアまでそれで流れてしまうのはハテナです。
そこで、敢えて運転士に有利な論拠からの強引な「仮説」を提起したいと思います。無論それが良いか悪いかの価値判断を外して、考えます。素人が断片的な情報をもとに考えた説ですのでろくでもないものだとは思いますので、批判をお待ちします。
①尼崎から回送電車により宝塚入線。駅手前場内信号でのATSによる非常ブレーキ作動とさらにオーバーランしてもう一度作動して停車。
これは普通では考えられませんが、終着地ではATSがけたたましく鳴るのは日常ですが、回送電車ということで非常ブレーキが作動するまで放置して「かけさせた」のか「失念」なのかはわかりませんが、あえて放置したという可能性があります。これは「ミス」といえるでしょう。
②宝塚定刻9:03発車、中山寺停車(ここでのオーバーランは確認されていません)、川西池田で20mオーバーラン、35秒遅れで発車。
最初のオーバーランです。「ブレーキ(恐らく空気制動のほう)が甘い」(複数証言)という事故編成車両の特性かと考えられます。ただし、
運転士は自分のミスと考えた可能性が高い。
③遅れの回復のため、伊丹駅接近の際、あえて自分のマニュアルによる定点よりも遅らせて強いブレーキを作動させるが、川西池田と同様の特性により、60mのオーバーランと非常ブレーキの操作により停車、停車位置を直し、1分30秒の遅れで発車。
このあたりは大分おおきく報道されています。ここでも、「自分のミス」と判断した運転士は、停車位置直しの過程ではかなりの動揺があった可能性が高い。(乗客の証言による急後退・急停車)
④運転士から車掌に申し出のやりとり。回復運転のため、約3kmの直線区間で、車両性能限界速度まで加速し(126km/h強か)、猪名寺、塚口を通過。1分遅れに短縮、そして、非常ブレーキ作動、事故発生。
運転士は回復運転の際には、今回の70制限カーブを、制限まで落とすことも可能だが、85km/h±5km/h程度で通過しようとしたとは考えられる。(現に通過に成功している複数の運転士の証言がある・また、事故の運転士も過去に経験していた可能性がある)
無線の呼びかけに応じなかったのは、1km/h単位でデジタル表示する速度計を見ながら、マスコンを左手に・ブレーキを右手にして最大力行から急減速のタイミングに集中していたのではないだろうか。
そして、ブレーキのタイミングで、運転士が常用最大ブレーキを投入しました。事故車のブレーキは、最近の車両では主流の、電空併用ブレーキで、まず、モーターを発電機に変えてブレーキをかけ、速度が落ちると空気ブレーキに切り替わるシステムです。そして発電機で発生した電気は、架線に戻して、同じ路線を加速走行中の電車に供給させる、省エネタイプの「回生ブレーキ」となっています。
しかし、不幸にも「異常な横揺れ」(車掌証言)と、車両性能限界の高速走行によって、パンタグラフが架線から離れる「離線」現象が起こり、
「回生ブレーキ」が一時的に効かなくなる「回生失効」状態に陥り、空気制動に自動的に切り替わるまで、数秒のブレーキ不能状態が発生してしまった。(のではないか。)
なおかつ、
空気制動も前2駅でオーバーランを引き起こしたように、「甘い」ため最大限の効果を発揮することなく、減速が予想を大幅に下回ったままであり、非常ブレーキを投入したが、予定よりもオーバースピードで制限区間に進入してしまった。(のではないか。)
そこで、さらに、複合的な要因(カントの微妙な不足、レールのカーブ施工誤差、急制動による乗客の偏移、空気バネの反作用)等により傾斜が起こ片輪走行ののち、脱線、横転したと考えられます。
以上、ここまでの情報で考えられる、運転士に有利な仮説を立ててみました。ただ、運転士がまだ経験が浅く、技量不十分だった(適性とは別)ことは否めないと思います。車両の特性を見抜けて、利用できる技量があれば、防げたかもしれません、この仮説において運転士個人を責められるのはその程度のことです。ただし、彼のような運転士を育て上げる環境をつくることが出来ないままに、乗務を続けさせて、さらに失敗すれば懲罰というJR西日本の体制こそ、責められるべきだと思います。